倉庫の隅に、半年前にまとめ買いした在庫が積まれている。段ボールを開けるたびに「これ、売り切れるのだろうか」と不安になる。その一方で、先月から急に動き始めた別の商品は、注文が入るたびに在庫数を確認し、気づけば「在庫切れ」の表示が出ている。多く仕入れたはずなのに、足りない商品がある。この二つは同時に起きる。
結論から言うと、「持ちすぎ」と「欠品」は別々の問題ではありません。在庫を個数の合計、つまり「量」でしか見ていないことが、両方を同時に引き起こしています。原因が一つなら、直す場所も一つです。この記事では、その仕組みと、今日から見直せる考え方を順番に説明します。
なぜ在庫を持ちすぎてしまうのか
持ちすぎには、必ずきっかけがあります。多くの場合、それは「お得な発注」です。
セール仕入れ・大量ロット割引に飛びつく前に見落としていること
仕入先から「今なら1個あたりの単価が下がる」というロット割引を提示されると、判断の軸が単価に寄りがちです。しかし単価が下がっても、売れ残れば保管コストがかかり続けます。在庫は置いてあるだけで、家賃や物流費用の形でお金を消費し続ける存在だからです。割引で得た差額より、売れ残った分の保管コストと、値下げして処分するときの損失のほうが大きくなることがあります。
滞留させたときの出口を、先に決めておく
私自身は、在庫を持ちすぎて大きな損失を出した経験はありません。ただしそれは運がよかったからではなく、動かなくなった在庫をどう現金に戻すかを、先に決めてあるからです。
在庫は早く現金化しなければなりません。ここが滞ると、事業全体が重くなります。動かなくなった在庫に対して、私が実際に使っている出口は次のとおりです。
- 売れ筋商品のオプションとして、安く付ける
- レビュー投稿のお礼として付ける
- アウトレットコーナーを作って並べる
- 「〇〇円以上の注文すべてにプレゼント」という企画にする
- スーパーセールなどの半額目玉商品として出す
ただしレビューのお礼については、モールによって扱いが違います。レビューの見返りに特典を提供することを規約で禁止しているモールがあるため、使う前に必ず各モールの現行規約を確認してください。
これらに共通しているのは、現金に戻すか、レビューのような別の形の資産に替えるかを最優先にしている点です。値段を下げること自体が目的ではありません。抱えたまま時間が過ぎることが一番損なので、形を変えてでも動かします。
「売れる気がする」で発注量を決めてしまう仕組み
発注数を決めるとき、根拠が「なんとなく売れそうだから」になっていないでしょうか。この判断は、直近の印象に強く引っ張られます。SNSで話題になった、競合が値上げした、といった一時的な情報が、実際の販売ペースより優先されてしまう。結果として、感覚で決めた数量が、実際の需要と大きくずれることになります。
在庫があるのに欠品が起きる理由
在庫の合計数が足りているのに、個別の商品では欠品する。この矛盾は、在庫を「まとめて見ている」ことから生まれます。
売れ筋と死に筋が同じ保管スペースを奪い合っている
保管スペースにも、発注や検品に使える時間にも限りがあります。よく売れる商品の追加発注が後回しになり、逆に死に筋(ほとんど動かなくなった商品)のスペースだけが確保され続ける。売り場や倉庫の面積は増えないので、これは常にどちらかを犠牲にする配分の問題です。
欠品でいちばん痛いのは、売り逃した売上ではない
欠品の経験は何度もあります。原因はさまざまで、売れ行きの予測が及ばず見込みが甘かったこともあれば、仕入先の都合で入ってこなかった、納期が遅れた、というものもあります。
そのうえで言うと、欠品の実害として一番きついのは、売り逃した分の売上ではありません。ランキングと検索順位の落ち込みです。売上そのものは次の入荷で取り返せますが、一度落ちた順位は戻すのに時間がかかります。
ではランキングを守るために多めに持てばいいのか。そうはなりません。無理な仕入れ数の増加はしません。無理な仕入れで資金が回らなくなれば、事業そのものが続かなくなるからです。売れることが分かっている商品であっても、現在のデータから予測を立て、予測可能な範囲で仕入れます。
さらに、自分の判断では動かせない要因もあります。Amazonであれば、商品ページの乗っ取り、規約に関するトラブル、類似商品による対抗といったことが起こり得ます。予測が当たっていても供給側や販売環境が崩れることがある以上、在庫を多めに積むことは欠品対策として万全ではありません。
資金が動かない在庫に固定され、次の仕入れができない
仕入れに使ったお金は、商品が売れて入金されるまで戻ってきません。動かない在庫が増えるほど、この「戻ってこないお金」の割合が増え、売れ筋商品を追加発注するための現金が手元になくなります。売れ筋の欠品は、在庫が足りないのではなく、資金が動かない在庫に縛られて発注できなくなっていることが原因になっている場合があります。
在庫は保有しているだけでコストが発生し続けます。保管スペースを占有し続けること自体が費用であり、金額の大小にかかわらず、この構造は変わりません。
在庫に仕入日を持たせる
滞留は、ある日突然分かるものではありません。気づける形にしておかないと、気づけない。私はすべての在庫に仕入日を付与して、滞留在庫を管理しています。
在庫管理にはロジクラを使っていて、商品ごとの「ロット」の欄を仕入日として運用しています。機能や名称は変わることがあるので、導入を検討する場合は公式情報で確認してください。
そのうえで、仕入日から1年、2年という経過期間に応じて値引き幅をあらかじめ決めておき、在庫を吐かせるルールにします。都度悩むと判断が遅れます。先にルールにしてしまえば、悩む余地そのものがなくなります。
Amazon FBAや楽天RSLのような外部倉庫に預けている在庫は、長期保管がそのまま保管料の増加として跳ね返ります。ここは実害が数字で出る場所です。一方で、外部倉庫は保管期間をレポートで把握できるので、滞留を検知する仕組みとしては使えます。
各社の長期保管に関する料率と条件は変更されるため、本記事では金額を扱いません。実際の料率は各社の公式情報で確認してください。
「持ちすぎ」と「欠品」は同じ原因から起きている
在庫を「量」でしか見ていないと両方が同時に起きる
ここまでの内容をまとめると、原因は一つに絞られます。在庫を「総数がいくつあるか」だけで把握していると、どの商品が余っていて、どの商品が足りないのかが見えません。総数としては十分でも、中身の配分が崩れていれば、持ちすぎと欠品は同時に発生します。
SKUごとに適正在庫を考えるという発想
この問題を避けるには、在庫を商品全体の合計ではなく、SKU(商品1つひとつの単位)ごとに見る必要があります。SKUごとに「今どれくらい売れているか」と「今どれくらい持っているか」を対にして把握できれば、余っている商品と足りない商品を同時に見つけられます。
私の場合は、最初から色ごと・サイズごとのSKU単位で仕入れています。「この商品を100個」ではなく、「この色のこのサイズを何個」という単位で入れる。仕入れの時点でSKUに分かれていなければ、あとから分けて見ることはできません。
そのうえで、SKUごとに売れ行きとセッションの推移をデータで見ます。反応のよいSKUは追加仕入れに回し、反応のよくないSKUは差し替えるか、追加仕入れを止める。これを繰り返していくと、在庫の中身が売れるものに寄っていきます。
適正在庫の目安をどう決めるか
過去の販売ペースから発注量を逆算する考え方
適正在庫を考えるときの起点は、過去の販売実績です。ある商品が1週間に何個売れているかが分かれば、仕入れから納品までにかかる日数(リードタイム)のあいだに売れる見込み数と、欠品を避けるための余裕分を足して、次の発注数の目安を立てることができます。感覚ではなく、記録された数字を起点にするという順番が重要です。
そのうえで、新規商品について私が必ず守っている順番があります。まず小ロットで仕入れ、売れ行きと利益率を確認し、そこから徐々にロット数を上げていく。最初から大きく張りません。
カンで多めに在庫を積むのは、いちばんやってはいけないことです。思いつきで、データを持たないまま見切り発車をする。これを続けると、事業そのものが続きません。
目安はチャネルや商材によって変わる(断定しない)
この逆算の考え方には、一律の正解となる数値はありません。楽天市場・Amazon・自社サイトのどこで売るかによって注文の波は異なりますし、季節性のある商材、賞味期限のある商材では、余裕を持たせる分の考え方も変わります。ここで書ける目安は「過去の販売ペースを起点にする」という考え方までであり、具体的な日数や在庫数は、自分の販売データを積み重ねながら調整していくものです。
今日からできる在庫の見直し方
在庫を「動いている在庫」と「止まっている在庫」に分ける
まず、今持っている在庫を、直近で売れているものと、一定期間動いていないものに分けてみてください。分けるだけで、どの在庫が資金と保管スペースを占有しているかが見えてきます。動いていない在庫については、値下げして現金化するのか、それとも今後も売れる見込みがあるのか、商品ごとに判断する材料になります。
発注のたびに根拠を1行メモする
次に発注するときから、「なぜこの数量にしたのか」を1行でいいので記録してください。「セールで安かったから」ではなく、「直近1週間の販売数が◯個で、リードタイムが◯日だから」という形です。この記録が積み重なると、感覚で発注していた頃には見えなかった、自分の判断のクセに気づけるようになります。
これは在庫に限った話ではありません。小さく試して、数字を見てから広げる。思いつきで見切り発車をしない。この判断の仕方を続けられるかどうかが、つぶれないEC運営をつくります。
在庫の見直しが効きにくいケース
ここまでの考え方は、ある程度SKU数があり、販売実績のデータが蓄積されている場合に機能します。扱う商品が数点しかない、あるいは始めたばかりで販売実績がほとんどない段階では、逆算するための材料自体が足りません。この場合は、無理にSKUごとの管理を組み立てるより、まず一定期間販売してデータを貯めることを優先したほうがいいでしょう。
また、単価が極端に低く、1個あたりの保管コストの影響がほとんどない商材では、持ちすぎによる損失よりも、欠品による機会損失のほうを重く見る判断もありえます。どちらを優先するかは、扱う商材の利益構造によって変わります。
数字を数えられるようになった先にある問題
SKUごとに在庫を把握し、発注に根拠を持たせられるようになると、「持ちすぎ」と「欠品」という量の問題はかなり減らせます。ただし、そこで終わりではありません。楽天市場・Amazon・自社サイトのように扱うチャネルが増えてくると、今度は数字自体がチャネル間で合わなくなるという、別の壁にぶつかります。量を正しく数えられるようになった先に、その数字をどう共有し、判断に使うかという問題が待っています。この壁については、複数チャネルで在庫の数字が合わなくなる原因で詳しく扱っています。