楽天、Amazon、Yahoo!ショッピング、自社サイト。複数のチャネルで同じ商品を売っていると、値段だけは決まっているのに、広告費をいくらまでかけていいのか分からなくなる瞬間があります。
モール手数料も送料も頭には入っているものの、それぞれ別の数字のまま、1本の計算式にはつながっていません。結果として、広告費は「このくらいなら大丈夫だろう」という感覚で決めてしまいます。
結論から言うと、税抜の売上からモール手数料と送料を順番に引けば「限界利益」が出ます。そこから固定費の割合をさらに引いた「営業利益率」が、広告費にかけられる理論上の上限(使い切ると利益がゼロになる額)です。この記事では、この計算を1ステップずつ、つまずきやすい点とあわせて説明します。
限界利益とは何か。粗利・営業利益と何が違うのか
粗利・限界利益・営業利益率・上限広告費。呼び方が違うと、広告費の判断も変わります。
「利益は出ていますか」と聞かれたとき、粗利で答える人もいれば、営業利益で答える人もいます。同じ「儲かっている」という感覚でも、指している段階が違えば、判断も変わります。
「利益」という言葉が指す範囲は人によって違う
特に広告費を考えるときは、この違いが致命的になります。粗利の段階で「まだ余裕がある」と判断すると、実際には固定費を引いた時点で赤字だった、ということもあります。どの段階の利益を指しているのか、まず自分の中で固定してください。
この記事で使う4つの利益の定義(粗利・限界利益・営業利益・上限広告費)
この記事では、次の4つの言葉を、次の意味で使います。以降の計算は、すべてこの定義に沿って進めます。
- 粗利:税抜の売上から、仕入れ原価だけを引いた金額
- 限界利益:粗利から、モール手数料と送料をさらに引いた金額
- 営業利益率:限界利益から、固定費の割合を引いた比率
- 上限広告費:営業利益をゼロにするまで使ってよい、理論上の広告費の上限
粗利までしか見ていないと、モール手数料や送料の分だけ、手元に残る額を実際より多く見積もってしまいます。次の章では、この2つを引く具体的な順番を説明します。
限界利益を出す計算の順番(モール手数料と送料を引く)
計算の順番を間違えると、同じ数字を使っても違う答えが出ます。ここでは仮に、税込3,300円で売る商品を例に、順を追って計算します。以下はあくまで計算の流れを示すための仮の数字であり、特定のチャネルや店舗の実数ではありません。
税込価格を税抜にしてから、仕入れ原価を引いて粗利を出す
- 税込3,300円を税抜にする:3,300円 ÷ 1.1 = 3,000円
- 仕入れ原価1,200円を引く:3,000円 − 1,200円 = 1,800円(粗利)
ここまでは多くの人が普段から意識している計算ですが、問題はこの先にあります。
モール手数料(率)を引く。チャネルごとの見立ては後半で扱う
粗利からモール手数料を引きます。手数料は税抜の売上に対する率で決まるため、粗利ではなく売上に率をかけます。仮にモール手数料を15%とすると、3,000円 × 15% = 450円になり、粗利1,800円からこれを引いて1,350円です。
チャネルごとの手数料の見立ては、この記事の後半でまとめて扱います。ここでは「率で引く」という計算の形だけ押さえてください。
送料・梱包費・倉庫手数料(1個あたりの金額)を引くと限界利益が出る
次に、送料・梱包費・倉庫手数料を、1個あたりの金額として引きます。これらは率ではなく、商品のサイズや重量で決まる実額です。仮に1個あたり700円とすると、1,350円 − 700円 = 650円になります。
この650円が限界利益です。限界利益を税抜売上で割ると、650円 ÷ 3,000円 = 約21.7%になり、これが限界利益率です。
つまずきやすい点:モール手数料に送料は含まれない
ここで見落としやすいのが、モール手数料の中に送料が含まれるという思い込みです。公式の手数料表に並ぶのは、決済手数料やシステム利用料など、率で表示される項目です。配送にかかる実費は、この一覧には含まれていません。
特にAmazonのFBAのように配送を委託している場合、配送代行手数料はサイズ・重量の区分ごとに別建てで決まります。Amazonの手数料構造とFBA保管手数料が上がる時期を先に押さえておくと、この項目を取りこぼしません。手数料と送料を混同すると、限界利益を実際より高く見積もることになります。
モール手数料に、配送の実費は含まれていません。
手数料や送料を取りこぼしたまま値付けをすると、売れていても利益が残らないことがあります。筆者にも、この計算をしっかり確認しないまま値付けをしていた経験があります。
限界利益の計算をしっかり確認しないと、事業そのものの存続に関わります。競合店や競合商品がいる分野では、値付けはどうしても自分だけでは決まりません。仕入れたはいいものの、競合を確認すると勝てる金額にならないことがあります。そうなると、無理をしてでも安く価格をつけがちです。
失敗例としては、たくさん売れるようになったのに、改めて限界利益を確認してみると、ほぼ利益が出ていなかったことがありました。こうした失敗は多くのショップで起こりがちで、複雑な手数料や固定費を把握しきれないことも大きな要因です。
限界利益を確認して、いくらまでなら勝てる値付けができるかを、商品ごとに確かめてください。あわせて事業全体のPLをつくり、俯瞰した収支を確認しておくことも大切です。
固定費を引いて営業利益率を出す
限界利益が出たら、次は固定費です。ここを飛ばすと、広告費の上限を実際より多く見積もってしまいます。
固定費とは何を指すか(モールの固定費・人件費)
固定費とは、売れても売れなくても出ていく費用です。モールの月額出店料やシステム利用料の固定部分、梱包・発送を担当するスタッフの人件費、倉庫や事務所の賃料などが当てはまります。動かない在庫を長く抱えるほど、この固定費の重さも増えていきます。
在庫を持ちすぎると固定費(倉庫コスト)が膨らむ理由は、値付けの計算とも地続きです。固定費は1個の商品に直接ひもづく費用ではないため、月間の総売上に対する比率として按分します。月間の固定費合計を月間の総売上で割れば、1個あたりに乗せるべき固定費の比率が出ます。
営業利益率が、そのまま「削っていい広告費の上限」になる理由
限界利益率から固定費の比率を引いた残りが営業利益率です。先ほどの例で固定費の比率を仮に5%とすると、限界利益率21.7% − 5% = 16.7%になります。売上3,000円の商品なら、営業利益はおよそ500円です。
ここまでの計算で、仕入れ・モール手数料・送料・固定費は、すべて引き終えています。残った営業利益こそ、まだ削れる唯一の部分です。だからこの数字が、そのまま広告費にかけられる理論上の上限、つまり使い切ると利益がゼロになる額になります。
限界利益率21.7% − 固定費比率5% = 営業利益率16.7%。売上3,000円の商品なら、営業利益はおよそ500円です。この営業利益が、広告費にかけられる理論上の上限(使い切ると利益がゼロになる額)です。
上限は天井。続けるかはROASで決める
営業利益率をそのまま広告費に使うと、利益はゼロになります。上限は理論上の天井であり、その範囲で実際に使い続けるかどうかは、ROASで判断します。
理論上の上限と、実際に使う額は別のもの
3,000円の商品で、営業利益のおよそ500円をすべて広告費に使えば、1個売ったときの営業利益はゼロです。前の節で出した上限は、この天井の高さを示しています。
上限の内側のどこまで使うかで、手元に残る額は変わります。たとえば上限の約500円のうち広告費に200円を使えば、1個あたり約300円が残ります。500円を使い切れば0円です。
この金額は計算の仕組みを示す例で、いくら残すのが正解という意味ではありません。筆者は、利益を何%残すという固定の率では決めず、ROASで続けるかどうかを決めています。
広告費は限界利益から出す。見る数字はROAS
広告費は限界利益の中から出すため、かけるほど利益は薄くなります。上限の範囲に収まっていても、続けるかどうかは別の話です。筆者は広告を出す商品を決めたうえで、主にROAS(広告経由の売上÷広告費)を見て、広告の露出を続けるかやめるかを判断しています。ROASは、限界利益の中からかけた広告費と、その広告で得た売上から出るので、まずこの2つの数字を確認します。
ROASは広告経由の売上に対する比です。商品の売上全体に対する率である営業利益率とは、売上の範囲が違うため、この2つをそのまま並べて比べることはしません。
ROASを確認して、効率が悪ければ広告は続けません。ページの改善をするか、セールで早めに現金に変える段階に移ります。
反対に、広告の効率がいい商品は露出を増やしていきます。ただし、露出がある程度増えすぎると効率が落ちてくるので、ROASが維持できる配信数とCPAで広告を回します。
このようなルールを作る前は、広告をかけるほど利益がなくなってしまう失敗を繰り返してきました。
見る数字は、限界利益の中からかけた広告費、その広告で得た売上、ROAS、配信数、CPA(1件の成果をとるのにかかった広告費)です。記録と比べ方の例としては、配信量を変えるとき、変える前の数字を記録し、変えるのは1つだけにして、同じ長さの期間で比べる、という方法があります。
ROASがいくつを下回ったらやめる、という一律の線は、この記事では示しません。
ここまでは、1個売ったときの利益で見てきました。リピートまで含めると使える広告費の考え方が変わるので、その見方はLTVで広告費をどこまで出せるかを考える方法で扱います。
チャネルが変わると、この数字はどう変わるか
モール手数料も送料もチャネルによって構造が違うため、同じ商品でも、どこで売るかによって限界利益は変わります。
モール手数料の見立て(楽天・Amazon・Yahoo・自社サイト)
以下は、複数チャネルを実際に運用してきた中での見立てであり、各社が公式に一律の実測値として公表している数字ではありません。確度は「経験からの推測」として扱ってください。
筆者の見立てでは、Amazonと楽天市場(スタンダードプラン)はともに15%程度です。Amazonはカテゴリーによって手数料率が変わるため、この数字は目安として扱ってください。Yahoo!ショッピングは10%程度、自社サイトは3〜10%程度と幅があります。
各チャネルの費用構造の内訳と公式の出典は、楽天・Amazonなど各チャネルの初期費用と参入障壁の比較に整理しています。この記事では、その数字を計算式にどう当てはめるかに絞ります。チャネルを増やすときも、考え方は同じです。モール手数料と送料の数字だけを差し替えれば、同じ商品でどこが一番利益を残せるかを比べられます。
筆者の見立てでは、Amazon・楽天市場(スタンダードプラン)が15%程度、Yahoo!ショッピングが10%程度、自社サイトが3〜10%程度です。数値はあくまで経験からの推測であり、各社が公式に公表している実測値ではありません。
自社サイトだけ手数料の幅が広い理由
自社サイトの手数料は、実質的に決済手数料です。これにカート側の手数料が、別に乗る場合もあります。決済代行会社との契約条件や、扱う決済方法の構成によって数字が変わるため、モールのように一律の料率にはなりません。
自社サイトの限界利益を計算するときは、この記事の見立てをそのまま使わず、契約している決済代行・カートの料率を自分で確認してください。
この計算が向かないケース
セット販売や福袋は、商品ごとに原価の配分が変わります。そのため、この計算をSKU単位でそのまま当てはめるのが難しくなります。原価の配分をどう決めるかによって、限界利益の数字自体が変わってしまうためです。
送料込み価格を採用していて、モールごとに送料の出し方を変えている場合も注意が必要です。実際の負担額をそのつど確認しないと、限界利益が実態からずれていきます。この計算は値付けの土台にはなりますが、競合の価格や在庫の廃番リスクまでは織り込めません。最終的な価格は、この数字を土台にしたうえで判断してください。
まとめ:1個あたりの利益を、感覚ではなく数字で決める
税抜価格から仕入れ原価、モール手数料、送料の順に引けば限界利益が出ます。そこから固定費を引いた営業利益率が、広告費にかけられる理論上の上限(使い切ると利益がゼロになる額)です。その範囲で広告を続けるかどうかをROASで決めれば、広告を回しながらでも利益が削られすぎるのを避けやすくなります。
税抜売上 − 仕入れ原価 − モール手数料 − 送料 = 限界利益。限界利益率 − 固定費比率 = 営業利益率。この営業利益率が、広告費にかけられる理論上の上限(使い切ると利益がゼロになる額)です。実際に続けるかどうかは、ROASで決めます。
まずは今売っている商品のうち1つで、税抜価格から営業利益率までの計算を、実際の数字に当てはめてみてください。チャネルを増やすときも、手数料と送料の数字を差し替えるだけで、同じ計算式のまま比較できます。感覚で決めていた広告費の上限を、数字で言えるようになります。