物販を始めて数か月。在庫はExcelの表に、入荷した数と出荷した数を書き足しながら数えている。先週、初めて棚卸しをしてみると、表の数字と実際に並んでいる数が一致しなかった。どこで何個ズレたのか、原因はまったく分からない。
結論から言うと、在庫には「実物の数」と「データ上の数」という、性格の違う2つの数字があります。この2つを分けて考えることが出発点です。そのうえで、何を1個として数えるかを先に決めておかないと、Excelでもシステムでも必ずズレます。逆に言えば、ここさえ決めておけば、棚卸しのたびに原因探しで頭を抱える回数は大きく減ります。
この記事では、「正確に数える」ための土台を扱います。数え方は合っているのに在庫を持ちすぎる、あるいは欠品するという場合は、原因が別のところにあります。その場合は、持ちすぎと欠品が同時に起こる理由を扱った記事を先に読んだほうが早いはずです。
在庫には「実在庫」と「帳簿在庫」の2つの数字がある
実在庫と帳簿在庫、まず名前と役割の違いを押さえます。
在庫を数えるとき、実は2種類の数字を扱っています。1つは倉庫に実際に並んでいる「実在庫」、もう1つはExcelやシステムに記録された「帳簿在庫」です。この2つは、名前も違えば動くタイミングも違います。
実在庫=倉庫に実際にある数
実在庫は、棚や箱の中に物として存在する数です。目で見て数えられますし、手で触っても数えられます。棚卸しで数えるのは、基本的にこちらの数字になります。
帳簿在庫=Excelやシステム上の数字
帳簿在庫は、入荷や出荷を記録した結果として、表や画面に表示される数字です。人が入力した瞬間に更新されるので、実際の動きより早く変わることもあれば、入力を忘れて遅れることもあります。
この2つが常に一致していれば、在庫管理で悩むことはありません。ですが多くの現場では、どこかのタイミングでこの2つが離れていきます。
なぜこの2つはズレるのか(棚卸しで数が合わない原因)
実在庫と帳簿在庫がズレる原因は、特別な事故ではなく、日々の作業の中にあります。筆者が棚卸しのズレを追ったとき、候補に挙がったのは次のようなものでした。
- 入荷したときに、似た商品と取り違えて登録した
- メーカー側の出荷数が、そもそも発注数と違っていた
- 注文とは違う商品を、お客様に誤って発送してしまった
- 1点の注文のはずが、うっかり2点送ってしまった
- 撮影のために一時的に持ち出した商品を、棚に戻し忘れた
どれも、日々の作業の延長で起きたことです。
共通しているのは、「実際に動いた数」と「記録した数」が、どこか1点でずれているという点です。
このズレを実際にどう発見し、どう追いかけたかという具体的な経緯は、FBAを使うと在庫管理がどう楽になるかをまとめた記事で詳しく書いています。ここでは、ズレが起きる仕組みそのものを押さえておきます。
預けた在庫は、預け先の事情でも合わなくなる
AmazonのFBAのように在庫を預けている場合は、こちらの作業とは別に、預け先の在庫の状態(紛失など)で数字が合わなくなることがあります。「先月末在庫+今月の納品数-出荷数」で出した数と、預け先の月末在庫が食い違うのです。
筆者の店では、Amazonで紛失になっている在庫を、補填などの処理が済むまでは「ある」と数えています。ただし、これは帳簿上の数の話です。売れる在庫として数えるか、会計上どう扱うかは、また別に考えます。紛失中をどう数えるかも、先に決めておく数え方のルールの1つです。
照合の手順と、食い違いを起こす預け先の状態については、中級者向けのFBAの月末在庫をAmazonと突き合わせる記事で扱います。
ズレを防ぐのは「気をつける」ことではなく「決め事」
ズレを防ぐ方法として、多くの人がまず思いつくのは「気をつける」ことです。ですが、気をつけるだけでは、いずれ同じ間違いが起きます。実際に効くのは、判断の余地を残さない決め事のほうです。
人の判断や経験に頼るとズレる
入荷の数を目で数えたり、注文と商品を目で照合したりする作業を、人の判断に頼っている限り、確認漏れや思い込みによる間違いはゼロになりません。担当者が変わったり、忙しい日が続いたりすると、特に起こりやすくなります。
入荷や照合を、人の目と記憶に頼ります。筆者の経験では、どこかで人の判断に頼ると、在庫は必ずずれます。
何を1個と数えるかを先に決めて、誰が作業しても同じ答えになるようにします。
バーコードで統一するのが理想。ただし初期はExcelがほとんど
筆者の経験では、入荷・ピッキング・出荷・棚卸しをすべてバーコードで行えば、ずれようがありません。ただし、事業を始めたばかりの段階では、Excelや手書きのノートで管理していることがほとんどでしょう。
バーコード運用は、いきなり全部を揃える必要はありません。まずは「何を1個として数えるか」を、紙の上でも決めておくことが先になります。
まずは「何を1個として数えるか」を1枚のルールにする
決めておきたいことは、実はそれほど多くありません。例えば、次のようなことです。
- セット商品を1セットで1個と数えるのか、中身のパーツごとに数えるのか
- 色違いやサイズ違いを同じ商品として合算するのか、別の商品として分けて数えるのか
- 検品前の入荷品を、届いた時点で在庫に加えるのか、検品が終わってから加えるのか
- 預け先に在庫を置いているなら、「預けた在庫は、預け先の事情でも合わなくなる」の節で書いた紛失中の在庫を、「ある」と数えるのか「ない」と数えるのか
これらは、どれが正解というものではありません。自分の商品構成や作業の流れに合わせて1つずつ答えを出し、紙1枚にまとめておけば十分です。
引き当て済みの在庫でも、出荷前はまだ倉庫の管理下にあるものとして数えています。
検品前の在庫があれば、検品して在庫に計上してから管理しています。月末在庫を出すときは、検品前の入荷品がない状態で月末を迎えるような流れを作っています。これは、在庫資産を正確に管理しなければならない上場企業だからこそかもしれません。個人事業や小規模な会社の場合には、ここまでシビアに入荷を止めてまで管理しなくてもいい可能性はあります。
ルールが決まれば、数える作業自体はもう迷いません。次に押さえておきたいのは、その数字が何を意味するかという点です。
在庫は「資産」として扱われる、という感覚を持つ
個人で数点を扱っているうちは、在庫が1個ズレても実害は小さく見えるかもしれません。ですが在庫は、帳簿の上では金額に換算される「資産」です。筆者の経験では、それなりの規模の会社になると、在庫はお金のように管理されます。
数量がズレるということは、資産の金額がズレているのと同じ意味を持ちます。
規模が大きくなるほど、この感覚は重要になります。月末の棚卸しで数字が合わないという状態は、単なる作業ミスではなく、会計上の数字が正しくないという状態でもあります。
この基準が通用しないケースと、次に来る壁
ここまでの内容は、預け先を使わず倉庫が1つの段階で、まだ数え方のルールを何も決めていない人を中心に書いています。当てはまらないケースもあります。
扱う商品が数点なら、厳密な仕組みはまだ要らない
商品点数が数点程度で、担当者が自分しかいないなら、紙のメモ程度でも十分に回るでしょう。無理に仕組み化する時間を、仕入れや販売のほうに使ったほうがいい段階もあります。
定義を決めても、チャネルが増えると新しいズレが生まれる
預け先を使わず、倉庫が1つで完結している間は、これでいいのです。ですが楽天やAmazon、自社サイトなど複数のチャネルで売り始めると、話が変わってきます。倉庫間を移動中の在庫や、注文は入ったがまだ出荷していない在庫など、単一倉庫では存在しなかった「宙に浮く在庫」が生まれるからです。
この壁は、数え方のルールを決めただけでは越えられません。複数の保管場所を運用したときに何が起きるかは、年間1万件を出荷する中で分かった、在庫が合わない原因を書いた記事で具体的に扱っています。単一倉庫の運用に慣れてきたら、次はそちらを読んでおくと、先に起きる問題が見えてきます。
数え方のルールが要らないのは、商品点数が数点で担当者が自分だけの段階です。逆に、複数チャネルで売り始めると、倉庫間を移動中の在庫や未出荷の在庫という新しいズレが生まれます。
まとめ:数える前に決めておく1つのルール
在庫が合わない原因を、Excelやツールのせいにする前に、確認しておきたいことがあります。実在庫と帳簿在庫という、性格の違う2つの数字を分けて考えられているか。そして、何を1個として数えるかを、誰が見ても同じ答えになる形で決めているか。
この2つさえ決まっていれば、棚卸しのたびに原因を探して頭を抱える時間は、大きく減らせます。まずは、自分の商品について次の3点を紙1枚に書き出すところから始めてください。
- セット商品を1セットで1個と数えるか、パーツごとに数えるか
- 色違い・サイズ違いを同じ商品として合算するか、分けて数えるか
- 検品前の入荷品を、届いた時点で在庫に加えるか、検品後に加えるか
預け先に在庫を置いているなら、紛失中の在庫の扱いも、同じ紙に1行加えてください。