この記事でいう「ロット」は、1回の発注で仕入れる数量のことです。たとえば、小ロットで仕入れた商品が3回続けて売り切れた場面を考えてください。次は同じ数量ではなく、もう少しまとめて仕入れたくなりますが、発注書に数字を書く手が止まります。多く持って資金が固まるのも、欠品して検索順位が落ちるのも怖く、仕入先が出してきたロット割引の単価に釣られて持ちすぎるのも怖いからです。
結論から言うと、「売れた」という事実だけでは、ロットを上げる根拠として足りません。見るのは、販売ペース、1個あたりの限界利益、資金が戻るまでの期間の3つです。そのうえで、売れ残ったときの出口を、上げる前に決めておきます。
この記事では、その3つと出口を順番に確かめる手順を書きます。「何個売れたら上げる」といった一律の基準は示しません。数字の意味はショップ・商品・時期・どのキーワードで入ってきたアクセスかによって変わるため、見る項目と記録の仕方までを扱います。
ロットを上げる前に、まず何を見るか
売れ行きだけでなく、利益率とSKU単位の動きをセットで見ます。
ロットの上げ方の基本は、小ロットで仕入れて、売れ行きと利益率を確認しながら徐々に上げていくことです。反応のよいSKUは追加で仕入れ、悪いSKUは止めます。この考え方の背景は、売れ行きと利益率を確認しながら小ロットから上げていく基本の考え方に書いてあるので、ここでは「確認する中身」に絞ります。
売れ行きだけでなく、利益率をセットで見る
売れ行きは、1つの数字では表せません。見る項目は次の3つです。
- 販売ペース(一定の期間に何個売れたか)
- アクセスの推移(セッションが増えたのか、同じアクセスで転換率が上がったのか)
- どの価格・どの施策のときに売れたか(値引き、セール、広告を入れていた期間かどうか)
3つ目が抜けると、判断を誤ります。セールや値引き、広告で押し上げた期間の販売ペースは、通常価格・広告なしに戻したときには続かないからです。ロットを上げる根拠にする販売ペースは、今後も同じ条件で売る前提の期間から取ります。
次に、その期間の利益率を並べて見ます。売れているのに1個あたりの利益が薄いなら、ロットを上げるほど、薄い利益を大量に積むことになります。利益の出し方はモール手数料と送料を引いて限界利益を出す計算の順番のとおりです。売れ行きが伸び悩んでいる商品なら、ロットを上げる前に売れ行きが伸びない商品を、価格・画像・説明から直す手順を先に見てください。
SKUごとに見る
ロットは商品単位ではなく、色・サイズなどのSKU単位で決めます。同じ商品でも、動くSKUと動かないSKUが混ざっているのが普通です。商品全体の合計販売数で判断すると、動いていないSKUまで一緒に積み増すことになります。販売ペースも在庫も、SKUごとに分けて記録してください。
Amazonの在庫の数字を使うとき
Amazonで売っている商品の話です。ロットを上げるかどうかの材料として、手元の記録のほかに、Amazonが商品ごとに出している指標があります。
ロットを上げるのは、増やせば売れると確信できているときだけです。どの程度売れるかが数字から見えてこないときには、増やしません。
確信するための材料として、いちばん簡単なのはAmazonの機能です。Amazonでは商品ごとに、あと何個の納品が必要か、今ある在庫が売り切れるまでの日数を示す在庫日数などの指標を見られます。これらを使うと、売れる商品と売れない商品が分かります。
ただし、これらの数字には欠点があり、そのまま鵜呑みにすると危険です。Amazonの数字は過去の売れ行きから計算されていて、実際の季節の波といった複雑な動きには対応していません。
たとえば、Amazon側で何日以内に300個の入庫が必要ですと表示されていても、もう夏が終わるのに、これから先、水着がそんなに売れるだろうか、という具合です。7月、8月のデータから売れる見込みを表示してくれていますが、9月以降は実際には売れません。この辺りは、自分の判断が必要です。
この記事で挙げる「あと何個の納品が必要か」と「在庫日数」は、筆者が使っている言葉で、画面や公式ヘルプでの正式な名称は確認していません。また、Amazonがこれらの数字をどう計算しているか(季節性を含むか)も、公式の説明を確認できていません。
ロットを上げると1個あたりの利益はどう変わるか
ロットを上げる目的の1つは、仕入れ単価を下げることです。ただ、割引で得た差額は、ロットが増えることで動く費用と同じ表に並べて、はじめて本当の利益になります。
ロット割引の単価差と、保管費・送料を同じ表で引き直す
割引で得られる差額は、次の形で書けます。
(今のロットの単価 − 上げたロットの単価)× 上げたロットの数量
一方で、ロットを上げると、次の項目が動きます。増えるものと減るものがあるので、方向を確かめてください。
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| 項目 | ロットを上げると | 確かめる場所 |
|---|---|---|
| 仕入れ単価 | 下がる(割引を受けられる場合) | 仕入先の見積もり |
| 1個あたりの保管費 | 売り切るまでの日数が延びる分、増える | 自社倉庫の費用、外部倉庫の請求 |
| 送料・梱包費 | 仕入先の送料条件しだいで、入荷送料の1個あたり負担が下がる場合がある | 仕入先の送料条件 |
| 値引きで処分する分 | 売れ残った分が出ると、割引額を食う | 仕入日ごとの在庫 |
| 資金が固定される期間 | 長くなる(次の節) | 入金日、発注から入荷までの日数 |
上の表で、割引で得た差額が、増えた保管費や値引き処分の見込みを上回るかを見ます。単価だけを比べると、割引のほうが必ず得に見えます。しかし、売り切るまでの日数が延びる分、1個あたりの保管費は増え、売れ残れば値引きが割引額を消します。限界利益の計算は、表の数字を入れ替えて、上げる前と上げた後で2回出して比べます。
広告で売れている商品は、ROASが保てるかを見る
広告で売れている商品は、ロットを上げる前に、広告の効率を確かめます。広告費の上限は、限界利益率から固定費比率を引いた営業利益率です。これは利益ゼロまで使える理論上の上限であり、実際にその範囲で広告を続けるかどうかは、ROASを見て判断します。この考え方は、上限の内側でROASを見て、広告を続けるかを決める節にまとめています。
ROAS(広告経由の売上÷広告費)が高いほど、広告費に対する売上は大きくなります。参考として、広告費が理論上の上限にちょうど達するROASの境目は、上限の率(広告費÷売上)の逆数、つまり100÷上限の%で出せます。単位は倍です。たとえば上限が16.7%なら、100÷16.7で約6倍です。ここを下回ると赤字になる境目であって、続けるかどうかを決める線ではありません。続けるかどうかは、ROASを見て判断します。また、上限の率は商品の売上全体に対する率で、ROASは広告経由の売上に対する比なので、この倍数はあくまで目安です。
広告費が上限を超えたまま販売ペースが伸びると、伸びた分だけ赤字が増えます。筆者の経験では、広告の露出を増やしすぎると効率が落ちてきます。ロットを上げて売れ行きを伸ばすために露出も増やすなら、ROASが保てる配信数に収まるかを見てください。
限界利益そのものには広告費が入っていません(粗利からモール手数料と送料を引いたものです)。そのため、ロット比較の表を引き直すときは、限界利益から広告費を引いた後の利益でも、上げる前と上げた後を並べます。
上げた分の資金は、いつ戻ってくるか
ロットを上げるとは、資金が戻るまでの期間を長くすることでもあります。仕入れに使ったお金は、商品が売れて入金されるまで戻ってきません。
仕入れから入金までの流れを1本の線で書く
お金が出ていってから戻ってくるまでを、次の順で書き出します。
- 発注して代金を払う(お金が出ていく)
- 仕入先のリードタイムを経て、入荷する
- 販売する(ロットの数量を、販売ペースで割った日数がかかる)
- モールから入金される(各モールの入金日に従う)
ロットを上げて変わるのは、3番目の販売です。同じ販売ペースで売れるなら、数量が増えた分だけ、最後の1個が売れるまでの日数が延びます。その間、資金は在庫として固定されたままです。
各モールの入金サイクルは、店舗の契約や設定で変わる場合があるため、この記事では数値を書きません。自店の入金日を、管理画面の入金予定またはモールの公式ヘルプで確かめて、上の流れに当てはめてください。
延びた期間に、次の発注の現金が足りるか
ロットを上げた商品が売り切れる前に、別の売れ筋へ追加発注が必要になることがあります。見るのは、上の流れで延びた日数のあいだに、その発注の代金を払える現金が残るかどうかです。
動かない在庫に資金が固定されて次の仕入れができなくなる構造は、滞留在庫の出口と仕入日の運用に書いているので、ここでは繰り返しません。
筆者は、無理に仕入れ数を増やしません。借入で賄ってまでロットを上げることも勧めません。資金の戻りが読めない商品は、戻りが読めるようになるまで数量を小さくとどめておくほうが、資金が固まるリスクを抑えられます。
売れ残ったときの出口を、上げる前に決める
売れ残った場合の対処は、上げる前に決めておきます。発注してからでは、選べる出口が減っているからです。
仕入日を持たせ、経過期間ごとの値引き幅を先に決める
すべての在庫に仕入日を付け、経過期間に応じた値引き幅をあらかじめ決めておく方法は、滞留在庫の出口と仕入日の運用で扱っています。ロットを上げるときは、追加した分の仕入日から数えて、どの時点でどの出口を使うかまで発注前に書き出します。出口の候補が思い浮かばない数量は、上げすぎの可能性があります。
保管費が上がる時期を、発注時期の判断に入れる(FBAの場合)
Amazon FBAに預ける在庫は、保管手数料の単価が時期で変わります。小型・標準サイズは10月〜12月に単価が上がるため、10月以降に入荷して年末まで持ち越すロットは、保管日数に応じて費用が増えます。発注時期の判断に入れてください。単価の表と倍率はFBA保管手数料が10〜12月に上がる仕組みにあり、ここでは数値を再掲しません。
出典:Amazon出品サービス「FBA在庫保管手数料」(確認日:2026年9月14日)。服&ファッション小物、シューズ&バッグのカテゴリーは別の単価が設定されています。改定される場合があるため、発注前に公式ページで現行の単価を確かめてください。
まず自社出荷で確かめ、売れると分かってからFBAへ
Amazonで新しいロットを試すときは、最初から全数をFBAに送らず、自社出荷で売れ行きを確かめてから送ります。FBAに預けた在庫を返してもらうにも費用がかかるためです。この順序は、自社出荷とFBAの振り分けを決める順序で詳しく書いています。
出口を決められない数量は、まだ上げないでおきます。
上げたあとに見る数字と、上げすぎの前兆
ロットを上げた結果は、上げる前と同じ項目で記録して比べます。
上げた前後を同じ項目で記録する
変える前の数字を記録し、ロットだけを変え、同じ長さの期間で比べます。セールや広告の入れ替えなど、ほかの条件を同時に変えると、どれが効いたのか分からなくなります。
← 横にスクロールできます →
| 記録する項目 | 上げる前 | 上げた後 | 何を見るか |
|---|---|---|---|
| 販売ペース | (同じ長さの期間で記録) | (同じ長さの期間で記録) | ペースが保たれているか。落ちたなら、その期間の販促や価格の違いも並べる |
| 在庫の滞留日数 | (仕入日から数える) | (同左) | 仕入日の古い在庫が増えていないか |
| 1個あたりの限界利益 | (記録) | (記録) | 割引の得が、保管費や値引きで消えていないか |
| 入金までの日数 | (発注から入金まで) | (同左) | 延びた日数のあいだ、ほかの発注に資金が足りていたか |
| 欠品した日数 | (記録) | (記録) | 上げたのに欠品が減っていないなら、数量以外(リードタイム、入荷の遅れなど)も疑う |
上の表は、SKUごとに1行ずつ持ちます。記録は販売管理の表や在庫管理ツールでかまいません。担当者が変わっても、同じ表を見れば同じ判断ができる状態にすることが目的です。
上げすぎの前兆
上げすぎは、次のような形で数字に出ます。
- 仕入日の古い在庫が、同じSKUで積み上がっていく
- 売れ筋の次の発注を、資金の都合で先延ばしにしている
- 売れ筋が欠品し、検索順位やランキングが落ちた
どの数字にいちばん早く出るかは、商材や運用によって違います。上の表の項目のうち、自店で最初に動く数字を特定しておくと、次のロットを決めるときの見張り役になります。
この考え方が効かないケース
ここまでの手順は、少量から試せて、追加発注を自分で決められる商品を前提にしています。次の場合は、そのまま当てはまりません。
- 実績データがまだない商品。販売ペースを取れないため、上げる根拠がありません。小ロットで実績を作るのが先です
- 仕入先の最低ロットが、売れ行きに比べて大きい場合。上げるかどうかを選べず、出口の設計と資金の確認が判断のほぼすべてになります
- 季節商材や、賞味期限・使用期限のある商材。売り切るまでの期限が決まっているため、販売ペースから逆算した数量が上限になります
次にやること
- 直近の売れ筋1SKUについて、上の記録表を1行だけ埋める(販売ペース、限界利益、入金までの日数)
- その数量を売り切るまでの日数を、販売ペースから出して書く
- 売れ残ったときの出口と、それを判断する日を、発注前に1行で書く
複数のチャネルで売り始めると、在庫の数字そのものが合わなくなります。チャネルを増やしたあとに在庫の数字が合わなくなる原因を先に押さえておくと、ロットの記録が崩れません。